「富岳」成果創出加速プログラム:「富岳」を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発

概 要

 スーパーコンピュータ「富岳」の有する高い計算性能を十二分に引き出すことができるアプリケーション・ソフトウェアを駆使することにより、壁面近傍の微細な乱流渦の直接数値計算(Wall-Resolved Large Eddy Simulation (WR-LES))、および、これらの乱流渦の効果を従来よりもはるかに高精度にモデル化する大規模な流体計算(Wall-Modeled LES (WM-LES))をエンジンルーム・タイヤハウス内の流れも含めた自動車まわりの流れの解析、および、軸封部や戻り流路などの細隙部内の流れも含めた流体機械の内部流れの解析に適用し、このような大規模数値計算による流れの予測技術は、自動車の風洞試験(空力性能・騒音)や流体機械の性能試験(一般性能・吸込み性能)を完全に代替えし得る計算精度を有することを証明します。また、この予測技術を用いて、自動車の空力・騒音開発で問題となる、走行・操縦安定性に対する空力現象の寄与や実走行状態における空力音の発生機構、遠心圧縮機の運転範囲を拡大する上で重要となるサージの発生機構など、製品開発上、重要な現象でありながら従来は経験的に扱われていた複雑な流体現象を解明します。
 このことを目的として、下図に示す5つの実証研究テーマを設定し、大学等の研究者と民間企業の技術者・研究者が強力に連携して、このプロジェクトを実施します。
 なお、このプロジェクトは、ポスト「京」重点課題⑧「近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発」サブ課題B、および、サブ課題Cで研究開発した、CUBE、FrontFlow/blue(FFB)、およびFFX等を主要なアプリケーションとして実施するものであり、「富岳」における実効性能は確認済みです。


実施体制

 このプロジェクトは、東京大学生産技術研究所を代表機関として、神戸大学、九州大学、岩手大学、豊橋科学技術大学、山梨大学、および理化学研究所計算科学研究センターと密接に連携し、研究開発を推進しています。そして、このプロジェクトはターボ機械、および自動車産業を主たる出口として、富岳を利用した大規模流体シミュレーションの産業上の効果を実証することを目的として実施するものであるため、一般社団法人ターボ機械協会、および、国立研究開発法人理化学研究所内に、「流体性能の高精度予測と革新的流体設計分科会」、および「HPCを活用した自動車次世代CAEコンソーシアム」をそれぞれ設置して実施しています。
 一方、ターボ機械関連企業、および、自動車関連企業では、本課題が目的としている、大規模な流体解析により性能試験や風洞試験を代替えし、試作回数を大幅に削減したり、性能に直結する複雑な熱流体現象を解明したりするだけではなく、「富岳」あるいは「富岳」の時代のHPCを高度に利用することにより、流体設計手法の抜本的な高度化も同時に期待されていますが、このことに関しては、上記のコンソーシアム、あるいは、分科会において実施する体制を構築しています。
 プロジェクト全体の連携を密としつつ円滑に運営していくため、東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター内に課題推進事務局を設置し、プロジェクトの推進や実証研究テーマ間の連携のための会議等の開催、参画の協力機関・連携機関との連携・調整にあたります。また、産業界からのニーズの提供・実用化を図るため、スーパーコンピューティング技術産業応用協議会や公益財団法人計算科学振興財団(FOCUS) との連携を強化していきます。