「富岳」成果創出加速プログラム:AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築

ご挨拶

 Society5.0の実現に大きく貢献するスーパーコンピュータ「富岳」は、2021年3月9日に共用が開始されて以降、様々な研究に利用されています。東京大学生産技術研究所では、代表機関として推進した、「富岳」成果創出加速プログラムの1課題である「『富岳』を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発」(2020年度から2022年度)において、神戸大学、九州大学、岩手大学、豊橋科学技術大学、山梨大学、および理化学研究所計算科学研究センターと密接に連携して、輸送機器やエネルギー機器等を主たる対象とした、ものづくりに係るシミュレーション技術の研究開発を行っていました。この研究開発では、実機スケールの乱流において微細な渦まで直接計算することによって、船の曳航水槽試験、自動車の風洞試験、およびターボ機械の性能試験などがシミュレーションで完全に代替えできる見通しを示すことができました。そして、自然風や前走者が作る変動の影響を受ける自動車の空力・運動連成解析を実現し、自動運転の実用化の加速に資する成果を達成し、また、ターボ機械の設計にとって重要でありながら従来は経験的に扱われてきた、ターボ機械特有の不安定現象である圧縮機サージの直接解析を世界で初めて実現し、その発生メカニズムを詳細に解明することができました。
 2023年4月からは、AIの活用によって、「『富岳』を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発」で示すことができたHPCの適用範囲を飛躍的拡大することと次世代計算基盤を構築することのための課題として、「AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築」(2023年度から2025年度)を、文部科学省の「富岳」成果創出加速プログラムの領域③「産業競争力の強化」の一つの大規模連携課題として実施することとなりました。
 この課題では、産業界におけるHPCの実用化を加速するための「基盤的な研究」、基盤研究の産業上の効果を検証するための、カーボンニュートラル時代のものづくりを代表する「実証研究」、および、実証された基盤研究の成果を幅広い産業分野に展開するための「次世代計算基盤の構築」に係る6つの研究テーマを設定し、研究開発を推進しています。この研究開発により、HPCシミュレーションに必要な計算資源の大幅な削減と革新的なシミュレーション技術の開発ができれば、「富岳」の実証研究の成果をより幅広い産業分野に展開でき、また、大規模計算の対話的な可視化、特徴量の自動抽出、およびアプリケーションの抜本的な高速化ができれば、産業界におけるHPCシミュレーションの実用化を大幅に加速できるようになります。そして、その得られた成果によって、我が国の持続的成長を支える産業の発展に貢献できるものと考えています。
 この課題は、東京大学生産技術研究所を代表機関として、神戸大学、豊橋科学技術大学、日本大学、明治大学、理化学研究所計算科学研究センター、一般財団法人 日本造船技術センターおよび株式会社本田技術研究所と密接に連携して推進され、一般社団法人ターボ機械協会「流体性能の高精度予測と革新的流体設計分科会」やHPCを活用した自動車次世代CAEコンソーシアムに参画されている産業界の方々、そして、洋上風力発電に関するHPCI課題の実施者とも密接に連携して実証研究を実施することとなっています。深層学習などのAIを応用することよって、その価値を飛躍的に高めたHPCシミュレーションを幅広い産業分野に展開し、3年間のプロジェクトが終了時には、多様なニーズをとらえた付加価値の高いものづくりを実現すべく、開発したシミュレーション技術が各企業の製品開発の場で実用性の高いものとするよう研究開発を推進していく所存です。
 皆様方のご理解とご支援を頂ければ誠に幸いです。

加藤千幸 センター長・教授

研究開発課題責任者
加藤 千幸
東京大学生産技術研究所
革新的シミュレーション研究センター 教授