「富岳」成果創出加速プログラム:AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築

ご挨拶

 近年、AI・データ科学は、熱流体工学等への応用が加速し、学術研究において欠くことのできないツールとなりつつあり、産業界での研究開発や製品開発においても積極的に活用されることが期待されています。我が国のフラッグシップシステムであるスーパーコンピュータ「富岳」でも、Society5.0の実現に貢献するべく、大規模シミュレーションとAI・データ科学の融合・連携による計算科学技術活用のための研究開発が盛んに行われています。
 そのような中、東京大学生産技術研究所では、2023年4月から、文部科学省 「富岳」成果創出加速プログラム 領域③「産業競争力の強化」の一つの大規模連携課題である「AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築」(2025年度まで)を、代表機関として実施しています。これは、2020年度から2022年度に実施した「富岳」成果創出加速プログラム「『富岳』を利用した革新的流体性能予測技術の研究開発」において示すことができたHPCの適用範囲をAIの活用によって飛躍的拡大するとともに、次世代計算基盤を構築することを目的として、HPCシミュレーション技術の研究開発を推進する課題です。
 この課題では、産業界におけるHPCの実用化を加速するための「基盤的な研究」、基盤研究の産業上の効果を検証するための、カーボンニュートラル時代のものづくりを代表する「実証研究」、および、実証された基盤研究の成果を幅広い産業分野に展開するための「次世代計算基盤の構築」に係る6つの研究テーマを設定し、研究開発を推進しています。この研究開発により、HPCシミュレーションに必要な計算資源の大幅な削減と革新的なシミュレーション技術の開発ができれば、「富岳」の実証研究の成果をより幅広い産業分野に展開でき、また、大規模計算の対話的な可視化、特徴量の自動抽出、およびアプリケーションの抜本的な高速化ができれば、産業界におけるHPCシミュレーションの実用化を大幅に加速できるようになります。そして、その得られた成果によって、我が国の持続的成長を支える産業の発展に貢献できるものと考えています。
 この課題は、東京大学生産技術研究所と、神戸大学、豊橋科学技術大学、日本大学、明治大学、理化学研究所計算科学研究センター、一般財団法人 日本造船技術センターおよび株式会社本田技術研究所が密接に連携して推進され、一般社団法人ターボ機械協会「流体性能の高精度予測と革新的流体設計分科会」やHPCを活用した自動車次世代CAEコンソーシアムに参画されている産業界の方々、そして、洋上風力発電に関するHPCI課題の実施者とも密接に連携して実証研究を実施することとなっています。深層学習などのAIを応用することよって、その価値を飛躍的に高めたHPCシミュレーションを幅広い産業分野に展開し、このプロジェクトの終了時には、多様なニーズをとらえた付加価値の高いものづくりを実現すべく、開発したシミュレーション技術が各企業の製品開発の場で実用性の高いものとするよう研究開発を推進していく所存です。
 皆様方のご理解とご支援を頂ければ誠に幸いです。

長谷川洋介 教授

研究開発課題責任者
長谷川 洋介
東京大学生産技術研究所
革新的シミュレーション研究センター 教授